嘘を愛する女
嘘なんかじゃないと思った。
彼女と五年も暮らした男、なんにも知らなくてもすきだったんだな。彼がどんな人であるかなんて、肩書きとかではなく一緒にいた時間に現れていたと思うから。
彼が偽名で隠してることばかりだとわかったとき、彼女といて安らいだ瞬間はあった?ちょっとでも心から笑えてた?って聞きたくなった。
彼女の痛々しさに指がひんやりした。なにもかもがうまくいかなくなって、うまくいかないから仕事でも心にくること言われて、自分は奢ってたのかもしれないって一気に突き落とされる感覚。
時間が止まった家に行ったとき、書いていた小説の意味がわかって、飛行機で観てるのに涙が止まらなくなった。一緒にいて幸せだったんだって、嘘なんかじゃなかったんだって。感動した。
じゃあ奥さんは?子供は?ってなるのかもしれないけど、じゃあきんちゃんは?って。きっぺいさん、目を覚ましてって心から思った。
誰かに小説のネタにされるくらい愛されてみたい。
戻って来てきんちゃんのベッド脇で独白すること、そんなたいしたことじゃないよっていってあげたい。その現実の生暖かさがいまこの瞬間にはわからないからかもだけど。きんちゃんとしたいこと10個考えたって言うところで、心がぐちゃぐちゃになった。
とても素敵な映画だった。